◆リカーシブ・ファンクション。◆
2001年10月16日▼問うた者が問われているということ。
「期待と観察は反比例していると思う」
「不味いものを食べてきたんだね」
・・・負けませんよ。
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大幅に時間をずれ込みました。予告を実行できない矛盾を抱えた人間なのです。
さて、並行して読み進めていた森氏の「有限と微少のパン」読了しました。課されていたものがあったために併読せざるを得ませんでしたが、それにしても長い読み物でした。
今回、一気に読もうと思えばそれもできた(時間的制約の中では)のですが、どうにもS&Mシリーズの最終巻だからというわけではなく、深く入り込むことが難しいものでした。
確かに真賀田博士が登場する、静かで洗練された切れ味を楽しんでいました。しかし、起こる殺人事件の関連性を見ていくとどうにも腑に落ちない点が出てくるのです。断っておきますがトリックではありません。これらの殺人にあの天才が関わっていることが見え隠れするのに、各人物が殺された意味を読み解けないのです。
これは困りました。「全F」のときにレーザーメスで前頭葉から脊椎まで一気に切られたような戦慄を感じたのに、今回のものは読み進める度に不可解な疑問符が浮かんだのです。ミステリィは、代表的な意味で、作者からの挑戦です。情報は次々と与えられるのに森氏の出した命題が解けないのです。時系列順に、現場の風景をアニメのセルのように描き、文中から見て取ったものを完全に頭の中で再現しているつもりなのに「・・・?」なのです。ほぼ毎日電車の中で数ページずつめくり、未消化の仕事をストックしていく作業のようなものでした。
しかし、作品中で「装飾」、「キャラクタ」の単語が気になる回数が増えていくと、この不確定さが「もしや・・・」と裏切りを期待した確信を描くようになりました。そう、選択肢を消去していくと残りはそうなるのです。同時に数学者としての森氏を発見する過程でもありました。
因む事ですが、年明け、大学の入学試験のシーズンになると、新聞紙上に「問題ミス」が載りますよね。私はまずこれを連想しました。未読の方と森氏のために配慮すると「答えが間違っている」、「行き詰まる問題だ」、というのではありません。では何が?、と思い至る人だけが手を挙げれば良いでしょう(と隠喩しておきます)。
正直なところ、「ガーン」ではなく「パリン」と私の脳漿は感想を提出しました。打たれて衝撃を受けたのではなくて、今まで張ってきたものが割れる音を頭の奥で聞きました。すべて設計されたもの、その上でああでもないと踊っていた私の観察眼は割れたのです。
この私にとって「割れた」覆しのあと、面白いようにクリアに多くのテキストをスキャンできました。何度も「あぁ美しい」と口に出しそうになったことか!まさにその時間は至宝でした。澄み切った頭の中に、「奇麗な感情」や「計算式を省いた会話」といった四万十川の源泉のようなクリアで冷たい水を流し込んだときの心地よさ。長らく味わっていなかった種類の快楽でした。これには「再確認」の作業を取り行なっていた個人的な事情も関係しているでしょう(些末な効果ですが)。
鋭敏な天才、きゃぁと声を発してしまう俗人。その中庸ではなく、両極のいずれにも身を分けておけること。森氏の描いた設計図をバラしていく過程で納得しつつ脳内麻薬を打つ。こんな娯楽があっただろうか。
以前、「InsiderとOutsiderのサンドイッチとしてのS&M」と申しました。が、訂正します。「こんなに美味いサンドイッチは無い!」。余計わからんか。
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「命題の証明のためには前提条件が誤り」。試験監督にそう言えれば、それだけで合格にしてあげたい。
えーと、なんといいますか。再認識も発見のうち、なのは分かります。しかし、経験してきたことを違う場面で出くわし、抽象化してサルベージすることが「再認識」。悪いことでは決してないのですが、私にとっては走馬灯のように人生をまとめる瞬間のように思えて、半分だけを楽しんでいた状態でした。それなので、突然の水滴がガラスを砕け散らせて私に届いたことが大きな新鮮さでした。
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今まで忙しくなかったから「忙しい」と思えるのであって、とても主観的な忙しさ、が始まりました。家に帰ってモニタの前に座っても眠気が先行してしまう。はてはスタバでモカを飲みつつ、文庫本を抱えて眠りに落ちてしまったり。
マルチタスク、で少し考えましたが、人体の生命保持のために一定のリソースを割り当てていなければならないので、2つの仕事を同時にするにしてもCPUの演算能力は半分を大きく下回ります。メモリ効果も同様で処理は遅くなりますよね。
きっと、聖徳太子に同時に7つ浴びせられた言葉は文字数の少ない回答で十分な質問だったのでしょう。凡人はそう思い込むことにします。
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森文庫、新たにVシリーズの「黒猫の三角」を購入してきました。シリーズとシリーズの間のクッションとして短編集を挟んで読むつもり。なので読み始めるのは来週になってからになるでしょう。とりあえずはS&Mを完結できたことを反芻します。
「有微パ」で奇麗になった精神も、向こうからやってくる雑事に雑然としてきました。矛盾があることはおかしいことではないし、それが生命のアポトーシスでもあるはず。気にせず作業を続けましょうか。ではでは。
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