▼ときどきセンテンス(森文庫引用)。

「不謹慎じゃない?それって」

練無は発言したが、自分でそう感じているわけではなかった。

@@出典:「黒猫の三角」/森博嗣/P147@@

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深謀遠慮、というべきなのか。

森文庫「黒猫の三角」読了しました。今回の創作の契機となったであろうキーワードは「理由」と「言葉」でありましょう。と、そのまえに短編集を飛ばしてVシリーズに入ってしまいました。近所の書店に売っていなかったもので。

それはともかく。

「線形代数」と「林選弱桑」を繋ぐシナプスの持ち主なのだな、と確認。前々から氏から理系的(一般的な“文系”解釈との対比の意味での)影響を受けてきたけれど、今作によって氏の日常生活でのヒントの拾い方のようなもの、を見れたような気がします。

それはWWW-webの思想。htmlによって記述され、サイト単体だけでなく、どこへでも脚注を貼れる。すなわちコアはLinkの発想。私が最も憧れる部分でもあるため素直に吐息。先の四文字熟語を目にしてその隠蔽された(というか遊び心!)法則性に気付くことが出来るとは!多分、この面白さを発見して長い間頭の書庫にしまっていたのでしょう。そして他の何かの機会に単位マトリクスを扱ったときに、その記憶引き出してリンクさせたのではないか、と私には想像させるのです。

これがLinkの思想をふんだんに含んだものであるのを知ったとき、Webを連想しました。続いてなぜ、デルタなのか。BBSを設置するときなどに、既成のcgiプログラムを少しいじってアレンジした人などなら気付くと思いますが、同じインテンジャが放り込まれたら1、異なるなら0、を出力させる関数を追加することがあります。ああ、なるほど!と心で叫び声。

ちなみに小学生のころ、暗号で手紙を書く、というのがクラスで流行りました。今は懐かしいポケベル型の暗号を私のグループは好んで使っていました。“はさみ”なら“(6,1)(3,1)(7,2)”、とても単純なものでしたが。他のグループにバレてくるとIBMとHALの名付けのような簡単なトリックを仕込んだりして、当時はとても面白かった、との思い出があります。

作品中ではゾロ目に関わる殺人が起き、読み終わったときに過去の記憶を解凍して思い出を反芻させる作業を行わせました。どこから何が飛び出してくるのか判らないものであります。

この理知的な犯行の一端には、キーワードとなる2つが大きく関わってきます。こちらは少年時代の思い出より明確に、関連付けがなされました。また政治ネタですが、現在の米同時多発テロへの報復としてのアフガニスタン空爆、をしっかりと頭に浮かべました。今回、アメリカは“自衛のための戦争”と呼称して、実質“気に入らない相手を殴る権利”と“スケープゴートとしての武力行使”を実行しています。前者の建前が納得できる「理由」であれば、殺しても良い、と。誰にでもわかりやすくするために陳腐な単純化をしてくれてます。小説中の殺人でも同様に動機、を警察は理解しようとします(報道される捜査情報は、そういえば動機があったから、ばかりですね)。

この判りやすさは殺人と戦争の、「理由があれば」殺しても良いor情状酌量の余地がある、ということに繋がってきます。電話代滞納したから、とか信号無視程度でも受け取る人が理由付けしたら、人は殺されることに是、なのでしょうか?

作品内ではそれぞれ、殺す側と殺されたくない側の立場を主要人物の台詞を借りて語られます。不謹慎ながら、殺す側の神々しさ、のようなものが誰の頭の中でも再現できるつくりだと思いました。最初の殺人においての「どうってことのない」新鮮さは、私には、目新しさと原初の不純さを目にした気がします。そして殺されたくない側の立場は、単純明快。そりゃ、私も今まで生きてきて、これからも生きていたい、そんな20数年間抱いていたものと同一であるもの。両者を同列に置くことで、人道主義者の唱える一方的な非戦の宣言が重さと色を伴っていない、とも見えてきます。

他にも中小のテーマとしてモラルとかリスクとか。読む人の素材次第で広げられる可能性があるでしょう。ストーリィの味付けはやや冗長な感もあり、前半が退屈であったりもします。それでも中盤からグッっと読者の心を引き込むのは、現在に生きている人々の共通項を誰しも手繰り寄せてみたい、と思うからではないかと分析。まぁ、皇名月氏が今作をコミック執筆している、ってのも大きいのですが。キャラクターがめちゃ想像しやすいので(笑)。

時間対効果以上に、楽しませて貰いました。ゆえに映画一本より少し高めの1700円分、エンタの価値を私は置きます。

さて、いい加減短編に行きたいところ。一応「人形式モナリザ」も買いに行こう♪


ではでは。


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