◆オオカミ男<人狼。◆
2002年3月9日「月は幽咽のデバイス」(森博嗣)読了。
人は事象と定義の間に、何かしらの意思を挟みたがるもの。それが自然が何千年も繰り返してきたことであっても。幽霊という存在がいた方が、恐怖の所在を明らかにできることのように。
ストーリィもトリックも、充実した時間を提供してくれましたが、私がくすくすと小笑いしてしまったのは登場人物の描き方。正直なところ、前作の「人形式モナリザ」では消化不良な点が私の中では大きいものでした。しかし、近作は作者の断片がいかんなく発揮されており、オルゴールのように飛び出た部分が心地よい音を奏でます。
「月がでているかしら?」
「ええ……、たぶん、どこかには出ているでしょうね。問題は、見えるか見えないかです」
「見るか、見ないかだわ」
最終章のセンテンスですが、登場人物の機微がつぶさに読み取れた作品だと思います。これまでS&Mシリーズに比べて物足りなさを感じていたVシリーズでしたが、異なるベクトルの楽しさを発見できて収穫でした。
ミステリィ・ファンのための読書ではなく、人波に溺れる者の読書となりました。これもアリ!
ではでは(久しぶり)。
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