「月は幽咽のデバイス」(森博嗣)読了。

人は事象と定義の間に、何かしらの意思を挟みたがるもの。それが自然が何千年も繰り返してきたことであっても。幽霊という存在がいた方が、恐怖の所在を明らかにできることのように。

ストーリィもトリックも、充実した時間を提供してくれましたが、私がくすくすと小笑いしてしまったのは登場人物の描き方。正直なところ、前作の「人形式モナリザ」では消化不良な点が私の中では大きいものでした。しかし、近作は作者の断片がいかんなく発揮されており、オルゴールのように飛び出た部分が心地よい音を奏でます。

「月がでているかしら?」
「ええ……、たぶん、どこかには出ているでしょうね。問題は、見えるか見えないかです」
「見るか、見ないかだわ」

最終章のセンテンスですが、登場人物の機微がつぶさに読み取れた作品だと思います。これまでS&Mシリーズに比べて物足りなさを感じていたVシリーズでしたが、異なるベクトルの楽しさを発見できて収穫でした。

ミステリィ・ファンのための読書ではなく、人波に溺れる者の読書となりました。これもアリ!


ではでは(久しぶり)。


コメント

お気に入り日記の更新

最新のコメント

日記内を検索