森文庫「奥様はネットワーカ」、読了。

正確に云えば、2度読みました。実は今まで意図的に森氏の作品を読み返すことを避けていました。その主な理由は「ページに折り目をつけていること」。当時読んだときに、そのページのフレーズに何かを読み取って、行為に及んだわけです。つまり、当時の自分の価値観をはじめとした感情が一緒に織り込まれているわけです。ゆえに、どうせ再読するなら自分の位置が変わって、作品を試金石的に用いるのがいいのではないか、と考えていました。

その姿勢は変わらないものの、先日の森氏本人とお会いしたことが自分をどのように変えたのか、を知るために最新刊が利用できるかもしれません。そんなまわりくどい理由付けから再読に着手しました。

幸運なことに「奥ネ」は2時間程度で読みきることの出来るテキスト量です。トリック面も珍しく配慮して読めればいいな、なぞ淡い期待も持って取り組みませう!


食べ応えのある料理に、舌触りを良くするために味を調える。そんな“食材”と“調味料”とを深く感じた作品。

登場人物からの視点ごとにまとめられたセンテンス群。その合間に目を通してみても理解に苦しむ、硬い何物かが見え隠れ。これだけを抜き出してみてもまさしく“歯”が立たない。

しかし、テンポの良い登場人物視点のセンテンスを読むうちに、誰に投影してよいか分からぬまま、じんわりと染み出てくるコールタールのような粘度の高い感情が舌を覆っている。他人に理解される必要がない動機ほど、自己投影に苦しむものはない。そんなものは本人(犯人)に任せてとくとくと読んでしまいましょう。

再読の際、気を払ったのは淡々と読むことの出来る一つの構成。正確にはトリック面の複線ということが出来るが、「なるほど、騙す構造だ!」を種明かしの如く拾っていく。こういった逆アセンブラ的なプロットの構造解析は初めて。「なるほど」、と相槌を打ちながらフラグを立ててゆけるのだな、と。

こういった読み方、いいかも。ますます作品を深く読めるのが何よりお買い得(!)。たぶん、いやきっと、再読運動が高まることでしょう(笑)。

私的価値1200円。そうはいってもごちそうさま。


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