ISBN:4091884814 コミック 篠房 六郎 小学館 2004/05/28 ¥590

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 待望の新刊!前作「空談師」と世界観を共有しつつ、登場キャラクタを一新させています。ネットゲームの特徴の一つとして、

「プレイヤ自身の数だけ、主人公が存在する」

という、CPUに遊んでもらうオフラインのゲームとは全く異質さがあります。この漫画では前作と舞台となるボードゲームは同一ながら、ワイヤードの先にコントローラを握る人物まで描こうとする、など作者の想定する視点は大きく異なっています。

 昨今の社会学者が解明に挑戦していることの一つに、

「匿名少数の参加者同士の関わり、ネットという糸の強度について」

そのような現象があります。果たしてこの漫画内でもその現象の解明に試み、いや寧ろ、客体視せず溶け込むように作者も1人のプレイヤとして、所々参加していると思える描写を見かけるのです。恐らくそのような手法を用いて解明したい、と考えているのは人間の多面性であり、また多面性の境界線を曖昧にするオンラインというツールの存在なのか、と読者に感想を持たせます…。

 挫折の末に引き篭もり、皮を剥いだ皮膚を掴むように親が引き戻そうとする。逆にバットで血達磨にしてしまい、絶対的だと思っていた父性を壊してしまったことで行き場のない悩みに陥る子供。

 師匠と弟子の関係の様に修行を施してきたあるプレイヤ。お互いに微かに親子の情を覚えるようになるが、言葉にした瞬間、否定したい感情が噴火する。存在を認めてあげる言葉をかける一方、別キャラで完膚なきまでに弟子を殺して破壊尽くす。

 ……オンの世界から断ち切るための一種のカウンセリングではある。弟子だった子供は確かにオフの世界に還っていくのだが、地獄を与えた師に後味の悪さを残していく。

 絵は濃密でとても見応えがあります。ストーリィも歯応え充分。…私は購入してダブルスコアで得をした、と感じますが…、あまり共感を呼ぶものではないかもしれません。読者層限定で決めうちで読まれて欲しい、そんな作品でした。

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