ISBN:4344006550 単行本 乙一 幻冬舎 2004/07 ¥900

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■2004.09.07 一人歩き日記。

乙一氏著「乙一日記」、読了。

 ブログというよりWeb日記な意味合いで記している文章。ただ、この日記は作者の乙一氏が主語で書かれているのは、冒頭部と終幕部だけ、という特徴があります。

 では日記なのにどこの馬の骨が書いているんだ…と疑問に思うでしょう。作者の乙一氏が執筆していることには間違いないのですが、“小生”という1人称の代名詞があたかも固有の人物のように振る舞って書いているのです。

 それはもう、読者は振り回されます。乙一氏本人のことなのか、あるいは架空の小生の妄想なのか。「この作者は枕に飴玉をびっしりと張り付けさせているのか…」などとあらぬ誤解をしてしまいそうになります。

 このことは自己同一性を考える上でヒントになるのではないでしょうか。乙一氏もあとがきで述べているように、「乖離して一人歩きした小生が気味悪くなった」という感触を持たせるほどに個性を持った人格となりました。

 読み手を惑わす目的で創造されたキャラクタでしたが、のちにWebでの作者の存在意義=日記の主人公をも「作者と小生は同一人物」であるかのように読み手に印象を与え、脅かす存在にまで成り上がりました。

 文章で事実以上に演出するのは特別な事ではありません。当人のみが知りうる体験であるならば、誇張して表現するのは珍しくないでしょう。ただし、一つの過剰演出がさらなる嘘を呼び込む段階となると、文章の自己同一性は瓦解し始めるでしょう。

 少しずつの誇張が、自己の内なる怪物を育てるドキュメントを記した怪作。次第に饒舌となる「小生」氏から目が離せなくなるでしょう!

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