■2004.11.20 (後編)

映画「雲のむこう、約束の場所〜The place promised in our early days〜」、視聴@シネマライズ

「いつも何かをなくしてしまいそうな不安があるの…」

 喪失、というキーワードでストーリィが始まることが象徴するように、この作品には幾つかの「喪失」のリフレインが紡ぎ合っている。

・時間の流れとともに失ったもの
・青春時代(より正確には中学生時代)の友人
・かつて抱いた淡い気持ち
・夢で見た一瞬の記憶を、目覚めと共に忘却してしまうこと

では、熱力学第二法則のように「喪失」を繰り返していくと無に帰することになるか、と云えば精神活動においてはそうでもない。新しい想い出という「創造」や、旧友との復縁も同じ機会が与えられ、溢れることなく積み重なっていく。

 この物語は、主人公達がかつて憧憬を抱き、今は原因不明の覚醒障害で眠り続ける少女をキーパーソンとしてSFを連ねて描かれている。永遠の一瞬を切り取ったような青春時代の淡い想い出、約束。夢の世界で、彼女が発病前に主人公らと約束したたった一つのことを拠り所にして、いつの日か彼らが夢の世界に一人ぼっちでいる彼女に気づいてほしいと願っている気持ち。構成的に徐々に彼女に近づいていく道程が本当に愛しく感じる。

 彼女の夢の残像と主人公が出会う瞬間、映像の効果だけでなく、自身の四肢まで「ぞくり」と震えてしまいました(マジですよ!)。しかも恥ずかしながら告白すると一滴涙腺が緩んでしまいました…。

 当時の約束から3年。誰しもそうであるように、時間と共に人それぞれの生き方を選んで別の道を歩んで行く。再開したときにはその齟齬を実感することとなり、時にはそれぞれの立場で衝突することもある。白い飛行機作成に夢を重ねていた主人公らにしても同様であった。各々が抱えたバックボーンからは、二者択一の選択肢を突きつけねばならない現実を、銃を持って突きつけねばならなかったのだった…。

 あのころの想い出は淡い青春。ジェットエンジンの炎も淡い青。この一致は偶然ではなく意図すべくして共通させた青だろうと思う。そして青く突き抜けた大空と白い飛行機は青春の象徴であり、その大空に一条の軌跡を刻むミサイルは大人のエゴと捉えられる。このような子供と大人の境界線として意識下の塔がそびえ、塔を自ら倒壊させることによって決別を意味するのだろう。

 決別がもたらす物は必ずしも喪失ではなく、眠り姫へのキスであり、これから作る想い出でもある。彼が手に入れた目覚めのヒロイン。彼女が夢の世界で彼が差し伸べてくれた温もりに感謝した言葉、目覚めと一緒に言葉を喪失してしまったとしても、大切に抱いていた記憶の温もりだけはずっと昇華せずに胸に残る想い出。

 新海監督のテイストとして、電車内や踏み切りの光景をモチーフにした心象風景を描くことが得意技として挙げられる。前著「ほしのこえ」との比較になるが、前著は宇宙が舞台で、今作は大空。両方とも遥か広大な舞台であるが、より広い宇宙でも疾走感ある空でも、

「時間と記憶の距離が離れる舞台」

であり、同じジャンルのテーマを描いている。前著がメールを題材にして詩的に表現されたのに対し、今作は夢と現実を舞台に叙情的にそのテーマに迫る構成となっている。

 大人のエゴの象徴である二国間の戦争の隙を突いて、白い飛行機ヴェラシーラを離陸させる瞬間など、もーポロポロと真珠がこぼれてしまいました(あー暗闇で良かった)。もうね、計算された盛り上がり方と音楽のシンクロが堪りませんっ!

 緞帳が下がった後、学生時代の友人の顔を思い出してしまいます…。久しく連絡を取っていなかったけれど、気紛れにメールでもしてみようかな、なんて浮付いてみたり。

 「知る人ぞ知る」系のアニメーション作品ですが、比較的広い感性の周波数を持っている作品だと考えます。ヒロインに魅力ありすぎるところと、SF設定がやや飛びぬけていることを考慮しても、いろんな人に観て貰ってヒットしてほしいと思います。いや、褒め言葉ですが多少のオタクっぽい、ということを危惧する老婆心なのですって!

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