柔らかな表現。
時間と共にずしりと存在感を増す、鉛のような読後感。

余白に目を逸らすとかえって想像してしまって怖い。
墓石に彫られた「昭和20年」がとぐろを巻いて胸を締め付ける。

「死ねばいい」と誰かに思いを込められ、中性子を詰め込まれた爆弾。
幸せになってはいけないのだ、という罪悪感。ねっとりと腐敗する直前のおばさんの死体を、冷静に選んで下駄を抜き取って履いたあの日。

世代を重ねて平成の世になっても。忘れたい記憶は塩基配列に書き込まれ。小学校から帰って家のドアを開けると、母がまっくろな血を吐いて倒れていた。

統計的な死亡者数からは見えない、昔、夏の日に時間を過ごしたことがあるという共通点を持つ人たち。それぞれのキャンバスを色とりどりに描かれた記憶たち。

なぜ、不思議と頬に涙をつたわせながら。何度も何度も読み返してしまうのだろう。そんな一冊。

■「夕凪の街 桜の国」、こうの史代著

ISBN:4575297445 単行本 こうの 史代 双葉社 2004/10 ¥840

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